うまるこ 作・田口ジャワ
登場人物
下北沢
まるこ
照明、下手。
下北沢 ああー、もう、もーう。…(カギを開けようとするが)…開かない。そして後ろには…(後ろを向く、ため息)…うーん、どうしたものか…うーん。今すぐ救助を呼びたいのも山々なんだけども、この恥ずかしい状況をどうやって説明しよう。(電話しているフリ)「もしもし、今日未明、1人の男子高校生が西校舎2階の男子トイレに立て篭もらざるをえない状況に追い込まれた模様。人質は生後1時間の……(指で指して)大!!」…うわー!そうなんだよー、お前が恥ずかしい原因のミソなんだよおー!本当にミソだし。ちょっと真面目に電話したって無駄だよな〜…。君(大きいの)さえ流れてくれればなんの躊躇いもなしに助けを呼べるんだよ!閉じ込められたくらいなんだッ!それよりも、俺が怖いのはッ………!
SE。
下北沢 お化けなんだ……!(間、もごもごなんかタメてる)……
音響。
下北沢 (怖い雰囲気)知ってますか…、ここ、西校舎2階男子トイレのの怪談話を……。…女の子の声がするんだ。始めは必ず、もしもし、から。それで、続けて色々はなしかけてくるけど、絶対、返事しちゃダメなんだ。たとえ、カッコいいですね、なんて言われても。返事したら、連れていかれるよ、あっちの世界に?波長を合わす合図だからね…。いいかい、俺!ここで禁止されているのは女の子の声への返事、一言目は必ず、もしもし、これにさえ注意すれば……、もしもし、(後、呪文のように呟く)もしもし…
下北沢が繰り返しているとだんだん、明るい女の子の声がFIでハモってくる。
同時に上手照明FI。まるこが現われる。
明確に聞き取れるようになると、下北沢硬直。
まるこ もしもーし、もしもしってば、こんにちは、お兄さん
下北沢 (声にならない悲鳴)
まるこ あら、何よその顔、せっかくのカッコいい顔が台無しじゃん
下北沢 そうかい?そんなにカッコいいかい?返事しちゃったー!!
まるこ あ、返事したってことは、聞こえてるんだね。うふふふふふふ。じゃあ早速…
下北沢 うーわああー!
まるこ 自己紹介しましょか
下北沢 え?
まるこ こんにちは、私の名前はまるこ。ちょっとインドア気味な女の子だけど、よく明るいとか元気とか言われます。宜しくう!
下北沢 え?え?
まるこ …?ホラ、自己紹介
下北沢 え?え、あ、ああ……し、下北沢です
まるこ 下北沢くん?ほう、じゃあ、私、今お肉の気分だから、シモフリくんで
下北沢 ん?え?
まるこ (強引)で、シモフリくんのこともっとよく知りたいな!暇持て余してる仲間だし
下北沢 ちょ、ちょっと待って!
まるこ お?
下北沢 き、君!
まるこ まるこだよーん
下北沢 ま、まるこさん!
まるこ はい、何でしょ
下北沢 アンタは誰だ!
間。ポッカーン
まるこ え、ほ、本物(バカ)だ…。本物がいる
下北沢 誰がバカだよっ!そうじゃなくて…あの!な、何でしょう
まるこ ………え?
下北沢 そう、そう!あの、き、君はお化けじゃないの!?
まるこ お?なんでそうなった?
下北沢 そ、そんな怪談話があって…あ、じゃ、じゃあ、お化けじゃないんですか!?
まるこ 違います、実体あるもん
下北沢 お化けじゃない、だから実体があって、……(考える)じゃあ、声が聞こえるって事は、ドアの向こうにまるこさんは居るの?
まるこ いいえ?
下北沢 …うん、ここは男子トイレなのは確かだから、女の子はいないよな…それにまるこさんの声、ドアの向こう側から聞こえて来るというより…、こう、身体に響いて、近くにいるような…(考える)
まるこ ふふ、私はね、なんとシモフリくんと同じでトイレに閉じ込められています
下北沢 わかった!
まるこ のっ!何がっ
下北沢 (ゆっくり)……私はシモフリくんと同じでトイレに閉じ込められています
まるこ ……本物だッ
下北沢 誰がバカだよっ!最後まで聞いて、(咳払い) シモフリくんと同じでトイレに閉じ込められています、これは、こういうこと、俺と同じ状況に置かれていて、どこか違うトイレに閉じ込められてるってことだ!んで、心の中で助けを呼んでいたら、こう、同じ信号を送っていた俺と、こう、……合致!フィーリングした!そうだろ!
まるこ (長い間)うん
下北沢 何今の間。…あ、そうか、女の子だもんな、言いにくいか…
まるこ …まぁ、私は女の子だし、助けを呼ぶのは恥ずかしいから、こうしてたたずんでいるわけだけども、シモフリくんは助け、呼ばないの?
下北沢 いやいやいや、今の状況は普通、男も女も関係なしに恥ずかしいじゃないですか。高校生が、高校生がですよ、「大きいのと共にトイレに閉じ込められた?はぁ?それ、リアルだったら、コマネチで反復横とびするしかないけど…(扉を開けて発見)って、まじかよ!(コマネチで反復横とび)」…って感じ
まるこ …シモフリくん、私がお化けじゃなとわかった途端ベッラベラ喋りだしたね。しかも独り言じゃんさ
下北沢 あ、ごめん(置いてって)
まるこ さっきの怯えてたシモフリくんはどこいった
下北沢 さっきの俺は偽りの俺。本性はかなりお喋りで便秘がちの好青年さ!(カッコつける)
まるこ 本性もカッコ悪いんだけど
下北沢 俺さ、ホント、独り言多くて。無意識なんだ。友達がこっそり俺の独り言の時間記録してたことあってさ
まるこ へぇ、暇なお友達だこと
下北沢 記録なんと、4時間47分
まるこ しぇー
下北沢 原稿無しのマシンガントーク!
まるこ へぇ〜……シモフリくんも凄いけど、聞いてた友達も凄くない?
下北沢 アイツ、ゴーレム石川って呼ばれるくらい不動なやつなんだ
まるこ 人間であってほしい…
下北沢 因みに、石川は記録計ってたやつと別ね。計ってたのはストーク山口。すげえんだ、同じクラスのまきちゃんの好きな食べ物とか体重とか住所とか、さらには今日行ったトイレの回数まで記録してんだ。アイツは記録のプロだよ、友達ながら尊敬しちゃうよ
まるこ それただのストーカー
下北沢 まぁ、それはいいとして。…俺、よく、話し方が上手いねって、褒められるんだ。多分、俺唯一の特技だと思う
まるこ じゃ、その特技を活かして助けを呼べばいいじゃんさ
下北沢 だー、それは恥ずかしいんだって
まるこ うーん、恥ずかしいねぇ、……面倒臭いやつだ
下北沢 本音か
まるこ ばっと言っちゃえば一瞬だよ。いっちゃえいっちゃえ
下北沢 なんて人事なんだ…。まるこさんも頑張んなくちゃ、進まないよ
まるこ 頑張っちゃダメな気がする
下北沢 何を根拠に言ってるんだか
まるこ ダメなもんはダメ〜
下北沢 (お気楽すぎるまるこの声を聞いて、ため息)………どうしよう
まるこ ガンバ
下北沢 ……なんで俺たち、繋がっちゃったんだろう
まるこ …普通に会話してるだけじゃんよ
下北沢 お、いいね、その考え方。………もしかして、将来のパートナーとか
まるこ ありえない
下北沢 仮定だよ。そんな即答しなくても
まるこ シモフリくんは高校生って言ってたよね?
下北沢 そうだよ。高校2年生
まるこ 学校、楽し?
下北沢 うん。石川とか、山口とか気の合う友達も多いし、勉強はできるほうだし
まるこ なんだ、バカじゃないんだ
下北沢 だから違うって
まるこ 部活は?何入ってるの?
下北沢 テニス!冴えない、ヒラ部員です。あ、そういえばまるこさんはお幾つなの?同い年くらいだよね…
まるこ シモフリくんより若いよ、当たり前田のクラッカー
下北沢 混乱すること言うなよ。…若いのか、高校?中学?
まるこ 学校は、行ってないよ
下北沢 あ、ご、ごめん…
間
まるこ さぁ!レッツテレフォン!
下北沢 ええ!唐突!
まるこ 人生は失敗してこそ楽しいの。失敗しない人間なんて死んじまえ!
下北沢 暴言吐いたよこの人!しかも失敗すること前提だし
まるこ シモフリくんさぁ、いっつもそんなんだしょ?
下北沢 え?
まるこ うじうじうじうじ、うじうじうじうじ
下北沢 む、虫!
まるこ 話すことが特技なんでしょ?なんか、今それを使わないのはずるい
下北沢 ……
まるこ 言える技能も、意見もたんまりあるくせに〜、何かが邪魔して言い出せない。でもそれって、自分で制御できるでしょ。LHRとか〜、意見が言えなくてフーラフラ。どこの味方にもつかないで、その場にいるだけー、みたいな。意思は伝えなくちゃ始まらないよ。ケッ、出し惜しみしやがって
下北沢 ……
まるこ 意見を求められててもー、曖昧な日本語使えば、アラ不思議、簡単に回避できちゃった。ああ、日本語って曖昧で助かったぜー、って、そんなんじゃ自分を見失っちゃうのだ!
下北沢 ……そう、だよね
まるこ ……私だってさ、自分で決めて、外に出てきたんだよ
下北沢 …外、嫌いなの?
まるこ だって、危険じゃない、家より。……でもある日、急に母さんも父さんもいなくなっちゃうんだもん。家の中は私しかいなくて、なんか、生きてる心地がしなくなってきた。兎に角、外に出なくちゃって思ったんだけど、……太陽の光を浴びて蒸発しちゃうかもしれないし、巨人が来て踏みつけられるかもしれない……他の生物とも関わらなくちゃいけないし。不安でいっぱいだった
下北沢 …ふっ
まるこ んが?
下北沢 ふふっ、あ、あははは
まるこ …笑ってやがる
下北沢 な、なんか、ファンシーだよ
まるこ ……そう?
下北沢 外に出たこと無いから、そんな考え持つんだって。怖いなら、一度、出てみればいいんだよ。拍子抜けするくらい、外は楽しいから
まるこ 楽しい……
下北沢 おう!
まるこ ま、怖がりなシモフリくんに言われたくないけどねー
下北沢 な、そ、それとこれとは話は別だって!
まるこ ふふふー。……ま、確かに、今、シモフリくんと話してて、楽しいよ
下北沢 本当?出できた甲斐あったね
まるこ 私がいい例
下北沢 ん?
まるこ 思い切って挑戦したら、案外、大丈夫だった
下北沢 ……
まるこ 電話しなって。恥かいたっていい。話すの特技なんでしょ?自分で笑い話にすればいいんだよ
下北沢 …………もし
まるこ はい
下北沢 もし、俺が助かったら、まるこさんとはもう、話せなくなっちゃうのかな?
まるこ そうなんじゃない?
下北沢 嫌だな
まるこ 嫌ーだね
間
下北沢 会えてよかったよ
まるこ 私も。でも、出会いの後にはいつかかならず、別れが訪れる。別れは、死ぬ時も含め
下北沢 まるこさんってさ、急におもい話持ってくるよな
まるこ そうかな?
下北沢 まるこさんも!勇気もって、脱出するんだぞ!
まるこ 逃げられない、運命だけど
下北沢 ん?
まるこ なんでもないよー。ねえ、も1回レバー押してみたら?うまるこ流れるかもよ
下北沢 あちゃー、そこまで、聞いてたのか
まるこ 早く〜早く〜
下北沢 はいよ。ジャ――――――――――――――――――――。……やった、流れた
まるこ 人に流されない生き方してね、下北沢くん
下北沢 言われなくたって
まるこ 後、夜中にコーラガブ飲みはもう、やめなさいよ
下北沢 え、なんで知ってるんだ?
まるこ ……だって、私、貴方の中に…ゲホッゲホ
下北沢 え?お、おい、まるこさん?まるこ……(ハッとして便器に向かい)まるこ!まるこぉ!
暗転、幕
| ホーム |




